(声だけ) | |
馬鹿 | 大臣さんよ。あんた偉い人だか? |
大臣 | 勿論じゃ。我が輩がいなければ国は無茶苦茶になってしまう。 |
馬鹿 | ふうん。そりゃどうしてだ? |
大臣 | つまりじゃ、我が輩がいなければ法律を作る者も守る者もいなくなる。 となるとじゃ、社会は秩序も統制もなにもかも無くなり、いっぺんに 平和は崩れ去ってしまうのじゃ。 |
馬鹿 | ふうん。でも秩序や統制って何だ? |
大臣 | 人々が決められた事を守り、又、決められた通りに動くって事じゃ。 |
馬鹿 | ふうん。じゃあそれが平和って云うもんだな? |
馬鹿 | 兵隊さんよ。あんたがた強い人だか? |
兵隊 | 勿論さ。俺達が銃を取れば一つの国なんかすぐに占領してしまうさ。 |
馬鹿 | ふうん、すごいなあ。じゃあ占領してどうするんだ? |
兵隊 | その国を開発して、文化や経済を発展させて平和な国にかるのさ。 |
馬鹿 | ふうん。じゃあ占領ってのは平和にするって事なんだな。 ところで平和って何だ? |
兵隊 | 平和とはね、人間みんながね幸せに暮らせるって事さ。つまり、戦争も 無く、毎日何の不自由も無く楽しく暮らせるって事なのさ。 |
馬鹿 | ふうん。おいらもそんな国があったら行ってみたいな。 |
(明るくなる。街の中。人々忙しそうに行き交う。馬鹿下手より登場。) | |
馬鹿 | (キョロキョロしながら。) みんな忙しそうだな。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、どうして あんなに忙しそうにするのかな。ちょっと聞いてみよう。 (呼び止めようとする。) あのう、もしもし・・・。 |
町の人 | うるさい!(通り過ぎる。) |
馬鹿 | ひぇっ! ああびっくりした。駄目だ。誰も相手にしてくれそうもないや。 (きょろきょろする。下手を見る。) あ、あっちからゆっくり歩いてきてる人がいる。あの人なら聞いてくれ るかもしれないな。(下手の方へ歩き出す。) (下手より大臣登場) |
大臣 | オホン、オホン。 |
馬鹿 | あのう、もしもし。 |
大臣 | オホン、オホン。(無視する。) |
馬鹿 | あのう、もしもし。(追いかける。) |
大臣 | なんじゃ。(振り返る。) |
馬鹿 | ヒャッ! ああまたびっくりした。 |
大臣 | なんじゃおまえは。自分で呼んでおいて自分でびっくりするとはおかし なやつじゃ。 |
馬鹿 | ちょっとおいら聞きたい事があるんだけど、聞いてもいいかなあ。 |
大臣 | よし、聞く事を許可しよう。 |
馬鹿 | んなら・・・ |
大臣 | 待て待て、まだ言う事がある。 なおこの件に関しては法令第15729号『親切に関する法律』の第523章『 ものをたずねる権利及びそれに基づく義務』第1631条の第48項によって 認められておるところの『道で人にものを尋ねる権利』によって我が輩 は許可したのである。又、同法令同章同条第53項によって、たずねられ たものは答えなければならぬ事になっておる。 |
馬鹿 | ほええ、あんたすごいんだなあ! |
大臣 | 勿論じゃ。我が輩は大臣じゃ。その位の事は知っておらんと大臣にはな れん。 |
馬鹿 | ふうん。 |
大臣 | どうじゃ。素晴らしい法律じゃろ。これは我が輩の作った法律なんじゃ よ。人は皆、親切の権利と義務を持っておるのじゃ。 |
馬鹿 | ふうん。でもね、さっきおいらが町の人にたずねようとしたら『うるさ い』って叱られたよ。 |
大臣 | (身を乗り出す。) むむっ何じゃと。それは明らかに法律違反じゃ。同法令の同章同条第97 項に決められておる。この法律に違反した者は五千円の罰金じゃ。なお これについてはおまえ自身が訴える事になっておる。どうじゃ訴えるか? 我が輩は大臣じゃ。訴える方法は教えてやるが。 |
馬鹿 | そうだなあ。どうしようかなあ。 勿論そのお金はおいらにくれるんだろ? |
大臣 | 馬鹿を申すな。これは親切に関する法律じゃ。親切とはつまり万民のも のじゃ。よってそれによる罰金等はすべて万民、つまり国のものじゃ。 |
馬鹿 | なあんだ、おいらのものにならないのか。じゃあつまんないからおいら 訴えるのよしとくよ。 |
大臣 | (しょげる。) なんじゃ訴えないのか。馬鹿馬鹿しい。やっとこの法律が使えると思っ たのに。(上手へ歩きかける。) |
馬鹿 | (思い出す。) あっそうだ、大臣さま、大臣さまぁ。 |
大臣 | なんじゃ。(振り返る。) |
馬鹿 | おいらうっかりしてて聞くのを忘れていたんだけど。 |
大臣 | (面倒くさそうに。) ああそうじゃったな。我が輩に聞きたい事があったのじゃな。 我が輩は大臣じゃ。なんでも教えてやろう。 |
馬鹿 | うん、あのね大臣さま。 |
大臣 | うんうん。 |
馬鹿 | おいらさっきから一生懸命考えても分かんないんだけどね、ほら、町の 人たちあんなに忙しそうに走り回っているけどね、どうしてなんだ? |
大臣 | (元気を出す。) うんうん、なかなかいい質問じゃ。こういう問題はちょっと難しすぎて おまえには分からんじゃろう。じゃが我が輩には分かる。我が輩は大臣 じゃ。分からんことは何もない。 |
馬鹿 | ふうん。 |
大臣 | そもそも如何なる理由にて町の者達があんな風に忙しくしているか。 |
馬鹿 | うん。(身を乗り出す。) |
大臣 | それはじゃ、すべて文明が発達しているからじゃよ。 |
馬鹿 | ふうん、でもどうして。 |
大臣 | まあ待て待て、おまえにも分かるように順序立てて話してやる。 |
馬鹿 | うん。 |
大臣 | そもそも文明のまだそんなに発達していない頃は、人は皆ゆっくりと歩 いておったのじゃ。別に早く歩く必要も無かったし、急がねばならぬ事 もそれほど無かったのじゃ。 |
馬鹿 | ふうん。 |
大臣 | しかしじゃ。文明が発達するとともに人間は忙しくなってきた。次々と 新しいものが発明発見され、それらのものすべてを人間は維持しなけれ ばならなくなったのじゃ。 |
馬鹿 | どうして? |
大臣 | 幸せと平和のためじゃ。新しく発明発見されたるのを維持し、それらを ますます発展させて、何一つ不自由の無い平和な社会を作るためじゃ。 |
馬鹿 | ふうん。 |
大臣 | そして今や文明は30年前に比べ約36倍にも伸びとる。して人口は2.3倍 に、機械等の能力は200倍に。しかしながら人間一人当たりの必要労働 力は3.4倍にもなっておるのじゃ。 じゃがいくら文明が発達したとはいえ、労働時間がそのために増えたの では文明発達の意味が無い。そこで人々は労働のスピードアップに心掛 けたのじゃ。今やその成果が現れ、30年前と比べ歩く速さは6倍、手の 動く早さは8倍、頭脳の回転速度は7.5倍にもなっておる。 |
馬鹿 | ふうん、すごいなあ。 でも大臣さま。 |
大臣 | 何じゃ。 |
馬鹿 | でもあんたさまだけは、ゆっくり歩いとったようだけど。 |
大臣 | うん。それは我が輩は大臣じゃからじゃ。 |
馬鹿 | じゃあ、大臣さまは忙しくないのかい? |
大臣 | いやそうではない。 勿論我が輩も文明の発達と共に忙しくなった。しかしじゃ、そもそも大 臣の仕事とは何じゃと思う? |
馬鹿 | さあ? |
大臣 | それはじゃ、法律を作り、又、外国と条約を結んだりするのが仕事じゃ。 |
馬鹿 | ふうん。 |
大臣 | この30年間、我が輩も恐ろしく忙しかった。なにせ文明がどんどん発達 するもんじゃから、次々と新しい法律を作らにゃあかんかった。それに 法律を作ると云う事は大変な事じゃよ。問題が起こってから法律を作っ てもつまらん。つまり、先に起こる事を予想して法律を作らにゃあかん。 それにそれぞれ利害関係もあるじゃろうから、それぞれみんなが満足の いく法律を作らにゃあかん。 |
馬鹿 | ふうん、大変なんだなあ。 |
大臣 | そうじゃ。じゃが我が輩は頑張ったぞ。我が輩は今までに1,571,234もの 法律を作ったのじゃ。 |
馬鹿 | ほええ・・・・。(驚く。) |
大臣 | わっはっはっはっ。 これから100年先までの法律を作ったからのう。もうこれで当分法律を 作る必要はないはずじゃ。 |
馬鹿 | ふうん。 |
大臣 | みんなが我が輩の作った法律さえ守れば社会は平和なのじゃ。 どうじゃ、分かったか? |
馬鹿 | うん・・・、何か分かったよう気もするけど。 |
大臣 | うん、そうかそうか。 それでは我が輩は失礼する。これから町の視察をせにゃならんのでな。 町を視察して町の人が何を求めているかを知るのも大臣としての我が 輩の仕事の一つじゃからな。(上手へ歩き出す。) |
馬鹿 | うん、ごくろうさんです。 (大臣を見送る。) ふうん、大臣さまってのは偉い人なんだなあ。おいら感心しちゃうなあ。 (しばらく感慨にふける。) |
(行進の足音。馬鹿上手をみる。) おや?あっちから兵隊さん達がやって来たぞ。 ふうん、勇ましそうだな。オイッニィオイッチニィ。 (兵隊達現れる。) | |
兵隊達 | (一人一言ずつ) 俺達は 勇ましい兵隊 俺達は 正義と 平和の 使者 悪を滅ぼし 正義を守るため 俺達は戦う(全員で) |
隊長 | 全員止まれ。 (全員止まる。) これより10分間の休憩を行う。 全員休め。 (兵隊達、その場で座り休憩する。) |
馬鹿 | (隊長に近づいて)もしもし。 |
隊長 | 何だ。 |
馬鹿 | あんた隊長さんだか? |
隊長 | そうだ。一体何の用だ。 |
馬鹿 | うん、いやねえ、ただおいらみんなを見てて感心していたんだがよ。 |
隊長 | 何を感心していたんだ。 |
馬鹿 | いやねえ、みんなとっても強そうで勇ましそうで。 |
隊長 | あたりまえだ。俺達は兵隊だ。兵隊が弱くてどうする。 |
馬鹿 | うん、そりゃそうだがよ・・。してあんた方どこから来なさったんや? |
隊長 | 平和の国からだ。 |
馬鹿 | ふうん。平和の国からか。 それでまた、どこへ行きなさるんや? |
隊長 | 勿論、戦争をしている国へだ。 |
馬鹿 | ふうん、平和の国から戦争をしている国へ? |
隊長 | そうだ。 |
馬鹿 | また何をしに行きなさるんや? |
隊長 | 勿論敵を殺したり、敵の砦を壊したり焼いたりするために行くのだ。 |
馬鹿 | なんでだ?おいらだったら平和の国に居た方がいいと思うけどな。 |
隊長 | 馬鹿な事を言うな。 俺達は皆平和を愛しているんだ。だから平和でない国があればそこへ 行って戦い、その国を平和にするのが我ら平和を愛する者の努めじゃ ないか。 |
馬鹿 | ふうん、そんなもんかなあ。 |
隊長 | おっ、もう時間だ。 全員整列。(兵隊達、集まり整列する。) 行軍始め。オィッチニィッ、オィッチニィッ。 (兵隊達下手へ消える。) (馬鹿一人でしょんぼりとしている。) |
馬鹿 | そうかなあ。おいらにゃあ何にも分かんないな。 (暗転) |
(声だけ) | |
馬鹿 | 神様ぁ。あんた偉い人だか? |
神様 | いかにも。われは万物の創造主なり。 |
馬鹿 | おいら難しい言葉は分かんねえけど、創造主ってなんだ? |
神様 | すべてのものを創り出したものよ。 この世のものすべて、人も牛も馬も羊も、これらすべてわれの創り出し たるものよ。 |
馬鹿 | ふうん。じゃあ、いい事も悪い事もみんなあんたが作ったんだか? |
神様 | いかにも。 |
馬鹿 | じゃあ、あんたを作ったのはだれだか? |
神様 | それはおまえたち人間じゃ。 |
馬鹿 | ええっ??? |
− | |
馬鹿 | 悪魔さんよ。あんた悪い人だか? |
悪魔 | いいえそんな事ないわ。私達悪魔は人々の幸せのためにいるのよ。 |
馬鹿 | へえ、またどうして? |
悪魔 | なぜって、神様の場合はね人々を苦しめることで幸せを教えようとして るけど、私達悪魔はね人々がその時その時楽しければいいと思うの。 |
馬鹿 | ふうん。 |
悪魔 | そうでしょ。明日の事なんか分からないのに、それだったら今幸せだっ たらいいじゃないの。 |
馬鹿 | うん、そうだなあ。おいらもそんな気がしてきたなぁ。 |
− | |
(明るくなる。舞台の右半分で神様がバーゲンセールをやっている。 下手から馬鹿登場。) | |
神様 | さあいらはいいらはい、神様の催す今世紀始まって以来の大バーゲンセ ールだよ。さあいらはいいらはい。みんなに幸福を送る夢の大バーゲン セールだょ。さあいらはいいらはい。 |
馬鹿 | 面白そうだな。神様がバーゲンセールをやってる。 ちょっとのぞいてみようかな。(神様の店へ近づく。) |
神様 | さあさあ幸福の大バーゲンだよ。 ぼっちゃんじょうちゃん、ちょっとのぞいてごらん。 さあいらはいいらはい。神様のバーゲンセールだよ。幸福になりたい人 は寄っといで。 |
馬鹿 | ねえ、おっちゃん。 |
神様 | おっちゃんではない、わしは神様じゃ。 |
馬鹿 | じゃあ、神様。 |
神様 | なんじゃ。 |
馬鹿 | 何を売ってるの? |
神様 | 何を売ってるのかだって?見れば分かるじゃろ。 |
馬鹿 | うん・・でも・・おいら・・分かんないや。 |
神様 | 分からんのか。じゃあ教えてやろう。 まずこれは百科事典、これは数学の本、これは科学の本、これは政治の 本、これは・・・ |
馬鹿 | ねねねね、ちょっと待ってよ。 おいら分かんないけど、幸福になろうと思ったらそんなみんがいるの? |
神様 | 何を言っとるんじゃおまえは。あたりまえではないか。 良く学び、良く知る。これすべて将来のおまえ達に役立ち、人の上に立 つために不可欠のものじゃ。これ無くして人は幸福になれるわけがない。 |
馬鹿 | ふうん、でもおいら、そんなの読もうとしてもよく読めないよ。 |
神様 | うんそうか。ではこれはどうじゃ。 |
馬鹿 | なんだこれは? |
神様 | これはな百円も入っておる財布じゃ。 |
馬鹿 | ふうん、でも百円じゃどうにもならないよ。 |
神様 | 馬鹿者、何を言っとるんじゃおまえは。 よし、ではその財布の有難みを説明してやろう。 百円入りの財布はじゃな、人に夢と希望を与えるものじゃよ。つまり、 それを持つ事によって人はな、それを増やそうと考えるじゃろ。そして そのために苦労と努力をして、ついにはこの百円を百万円にも、いや一 億円、一兆円にもしてしまうのじゃ。財布も今はただの布きれかもしれ んが、それも努力次第で黄金の財布にもなるのじゃ。 のう、なんと有り難きものじゃないか。 |
馬鹿 | そうだな。そう言えばなんだかそんなも気もしてきたな。 で、そいつはいくらだい? |
神様 | うん。こんな有り難いものはちょつとやそっとでは譲れん。 じゃが今日は特別大バーゲンセールじゃから、とびっきりおおまけにま けて一万円にしてやる。これが一億円一兆円になると思えば、タダみた いなもんじゃ。 どうじゃな?これを買っておまえも幸福をつかまんかな? |
馬鹿 | そうだなあ、どうしようかなあ。 |
神様 | どうじゃ。買うのか、買わないのか。早く買わんとこんないいものはす ぐに他のもんが買っていくぞ。 |
馬鹿 | そうだなあ、どうしようかなあ。 |
神様 | ええい、買うのか買わないのか、どっちかはっきりしろ。 |
馬鹿 | うん、そうだなあ。 ねえ、おっちゃん。 |
神様 | おっちゃんじゃない、神様だ。 |
馬鹿 | おいらもうちょっと考えるよ。ちょっと待っててね。 |
神様 | よし。じゃあ考えるんだったら隅っこへ行って考えろ。ここでは商売の 邪魔だ。 |
馬鹿 | うん、分かったよ。 (上手の隅へ行く。) でもどうしようかなあ。 |
神様 | さあいらはいいらはい。神様の大バーゲンセールだよ。 幸福の夢を送る大バーゲンセールだよ。 |
馬鹿 | どうしようかなあ。 (二,三回繰り返す。) (下手から悪魔が現れる。) |
悪魔 | あら、神様がバーゲンセールをやってるわ。 ええと“幸福を売る神様の大バーゲンセール”ですって。 よおし、じゃあ私もバーゲンセールをやろっと。 (下手へ戻る。) |
馬鹿 | どうしようかなあ。 |
神様 | さあいらはいいらはい。神様の大バーゲンセールだよ。 素晴らしい幸せをとびっきり安く売ってるよ。 さあいらはらいらはい。 (繰り返す。) (悪魔、荷物を持って現れる。) |
悪魔 | よいしょつと。 (店が出来上がる。) さあこれでいいわ。じゃあ始めようっと。 さあいらっしゃい、いらっしゃい。 悪魔の催す今世紀始まって以来の大バーゲンセールよ。 おぼっちゃんもおじょうちゃんも集まっていらっしゃい。 みんなが幸福になれるものがいっぱいあるわよ。 さあいらっしゃい、いらっしゃい。 |
馬鹿 | (悪魔のバーゲンに気付く。) おや、あっちでもバーゲンセールが始まったぞ。ちょっとあっちものぞ いてみようかな。 (近寄りながら。) こっちは悪魔がやっているんだな。 |
悪魔 | さあいらっしゃい、いらっしゃい。 悪魔の催す大バーゲンセールよ。 幸福になりたい人はいらっしゃいよ。 さあいらっしゃい、いらっしゃい。 |
馬鹿 | ねえねえ、おねえちゃん。 |
悪魔 | おねえちゃんじゃないわよ、私は悪魔よ。 |
馬鹿 | じゃあ悪魔のおねえちゃん。 |
悪魔 | まあいいわ。で、なあに? |
馬鹿 | おんたは何売ってんだ? |
悪魔 | 見てご覧なさいよ。とっても素晴らしいものばかりよ。 お菓子に、キャラメルに、プラモデルに、おもちゃに、その他とっても 楽しいものばかりよ。 |
馬鹿 | ふうん、そうだなあ。おいら見てるだけでワクワクして来たなる ねねねね、こんなかで一番いいってのはどれだい? |
悪魔 | そうね、どれもいいものばかりだけど・・・あっ、そうだわ。これなん かどうかしら。 |
馬鹿 | なんだこれは? |
悪魔 | 財布よ。黄金で出来た財布なのよ。そして中にはお金がいっぱい入って るの。ううん、いつぱい入っているんじゃなくって、絶対にお金の減ら ない財布なのよ。 |
馬鹿 | へえ、お金の減らない財布だって? |
悪魔 | そうなのよ。いくら出しても中のお金は減らない財布なのよ。 |
馬鹿 | ふうん、そいつはすごいなあ。 でもその財布いくらだ?高いんだろ? |
悪魔 | そうねえ、本当はこの財布は悪魔の宝物だから、ちょっとやそっとでは 売れないんだけど・・・いいわ。今日は大バーゲンセールなんだから、 とびっきり安くしてあげるわ。そうねえ・・一万円・・千円・・ううん 百円でいいわ。 |
馬鹿 | ほええ、そんなにすごい財布がたったの百円でいいのかい。 |
悪魔 | どお? |
馬鹿 | うん、買う買う。おいら買っちゃうよ。 |
悪魔 | じゃあ、はい。(財布をわたす。) |
馬鹿 | うん、じゃあ百円ね。(自分の財布からお金をわたす。) |
悪魔 | ありがとうございました。 (馬鹿、上手へ歩いて行く。) |
馬鹿 | 良かったな。おいら良かったな。たったの百円でこんなにいいものを買 っちゃった。良かったな。おいら良かったな。 (神様の店に気付く。) あっ、そうだ。神様のところにもとっても素敵な財布があったんだ。 (神様の店に近づく。) ねえ、おっちゃん。 |
神様 | おっちゃんじゃない、神様じゃ。 |
馬鹿 | あっそうだった。 ねえ、神様。 |
神様 | なんじゃ。 |
馬鹿 | おいらやっぱし、あの財布を買う事にするよ。 |
神様 | (喜んで。) おお、そうかそうか。おまえにもこの財布の有難みが分かったか。 よし、じゃあこれな。(財布をわたす。) |
馬鹿 | (どの財布からお金を出すか一瞬とまどい、悪魔の財布から出す。) じゃあ、これ一万円。 |
神様 | これでおまえも幸福になるじゃろう。良かったな。 |
馬鹿 | うん、おいらきっと幸福だね。じゃあさようなら。 |
神様 | うん、さらばじゃ。 (馬鹿上手へ消える。) さあいらはいいらはい。 神様の催す大バーゲンセールだよ。 幸福になりたい者はよっといで。 さあいらはいいらはい。 |
悪魔 | さあいらっしゃい、いらっしゃい。 (次第に暗くなる。) |